アカデメイア・オブ・コンプライアンス
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A)コンプライアンス違反者の心理

 コンプライアンス違反がなぜ後を絶たないのでしょうか。コンプライアンス違反の人間心理を解説します。

 人間は自分の周囲を知らず知らずのうちに気にしており、その意識を行動へ反映させています。人ごみの中で周囲の人の顔をジロジロと見ることは憚られますが、サングラスをかけて自分が相手の顔を見ていることを隠せる状態であれば、抵抗無く他人の顔を見ることが出来ます。(街中で何となく気になる人にすれ違ったとき、サングラスをかけていれば、躊躇無くその人の顔や目を見てしまうというような経験をしたことがある人もいると思います)

 また研修会場やスポーツクラブなどで、初対面の時であれば自己紹介など挨拶をすることは自然だけれども、挨拶する機会を逃したまま時間が経つと、(挨拶くらいしたいと思っても)何となく気恥ずかしかったり違和感を感じてしまい、結局「互いに顔は知っているけれどもよそよそしく振舞う」というような類のことも起こります。

 つまり、状況や環境によっては自分の内面(気持ち)通りに行動できるとは限らないという側面を我々は持っているのです。これと同じことがコンプライアンス違反の心理や行動にも言えるのです。

 コンプライアンス違反行動は、違反を起す当事者の環境と本人との相互作用の中で起こります。
【違反を起す人の職務環境】⇔【違反を起す人の内面】=コンプライアンス違反行動
という関係が成り立つのです。

 ニュースなどで「組織の上位者からの指示があったから(やむにやまれず)やってはならない行動をしてしまった」という告白をしている様子が報道されることがあります。「なぜ断れなかったのか」と不思議に思う視聴者も少なくないと思いますが、それはその状況の中にいないからそう思えるのであって、渦中にいる当事者の心理はそう簡単には断れないものなのです。

 このように環境や状況の圧力というのは、それくらい大きな影響力を持っているのです。

B)コンプライアンス違反を招く行動例とその理由

ではどのような行動がコンプライアンス違反を招くのか。以下にその例と理由を挙げます。

  • 自社・自部門・自分の上司や部下など、「自分たちのこと」ばかりを考えた発言や行為を繰り返す。(⇒これが日常的になると本人は後ろめたさが薄れ、それらに違和感を感じなくなる。また、周囲は不快に思いながらも「そういう人達だ」とレッテルを貼り、それらの行為に注意を向けなくなる)
  • 他人から言われた指示や言葉を鵜呑みにする癖がついている。(⇒1つの思考停止がさらなる思考停止を生み、無感情・無感動な「何も感じない人間」になっていく)
  • 良くない話しや行為を目にしても、それを口に出すことをためらっている。(⇒違反の芽が摘まれない)
  • 口にはしたもののそれで自分の役目は果たしたという気持ちになり、それ以上の具体的行動を取らない。(⇒対策を講ずるタイミングやチャンスを逃すことにつながる)
  • 話しは聞いたが自分の立場や能力ではどうにもならないだろうと思い、聞いたままにしておく。(⇒同上)

 具体的な案件をここで挙げることは控えますが、事故を解説する報道や関係者の声を聞くと、数の多寡はあるものの上記が当てはまっていることが分かります。

C)社員の正常な感覚を麻痺させる元凶

 コンプライアンス違反の裏には、直接違反に関与した社員に加え、それを傍観するなど間接的(結果的)に違反に加担してしまった社員の存在があります。第三者から見れば「それはまずい」と思えるような出来事が、なぜ当事者達には見えなくなるのか?

 その根本的な背景は3つに分類できます。

  • 社会的要因
  • 組織的要因
  • 本人要因

 社会的要因は、(会社を利益偏重に追い詰める)経済合理性を過度に要求する一部の投資家集団や株主、低価格・高品質・高付加価値など自分の利便性を徹底して企業に求める一部の消費者、安全性と低コストなどのトレードオフの関係を両立させるのは企業として当然だという正論を安易に流布する“識者”の声や報道(及びそれを無批判に受け入れている人々)などによって形成されます。

 組織的要因は上記社会的要因を受けた経営のあり方や組織内の経済合理性を過度に追求する個人や集団の発言や行動により形成され、これらが普通の感覚を持っている従業員の余裕を奪い疲弊させ、結果として社員の意識を麻痺させます。

 本人要因は、「こんなことをやったら、社会や顧客に対する責任を果たせなくなる」と想像する力や、状況や場の流れに自分を任せてしまう立ち居振る舞いに自分でストップをかける成熟した社会人としての行動力の欠如などによって形成されます。

 ところでB)で述べたように、人間の行動は周囲からの影響を強く受ける傾向があります。その意味で社会的要因は非常に重要です。

 株主や消費者の声を無視できないというのが企業の本音ですから、コンプライアンスを守るためには株主や消費者を含め、社会のあり方や現在の社会を作っている我々の理解と行動が不可欠です。

 そのような理解と行動を身をもって示さないままコンプライアンス違反を犯した個人や組織を批判しても、事態の本質は何も改善されません。

D)コンプライアンスをめぐる人間の心理的構造

コンプライアンスを守る際の意識は以下で示す3つのレベルに分かれます。

  • レベル1・・・ルールや罰則があるから守る。
  • レベル2・・・他者からの批判や非難を恐れ守る。
  • レベル3・・・他人がどうこうではなく自分の常識・信念として守る。

仕組みで対応できるのは、せいぜいレベル2の前半くらいまでです。どんなに仕組みを高度化させても、破ろうと思えばその策をひねり出すのが人間です。コンピューターウイルスとウイルスソフトの関係をみても、この現実は容易に想像できます。

 人の意識レベルを3まで引き上げることが、コンプライアンス実現上極めて重要なのです。

E)コンプライアンスの本質は「自分」にある

 このように考えていくと、コンプライアンスを実現するためには本人のみならず、コンプライアンスを守らせる社会や環境をいかにして作るかということが非常に大切であることが分かります。

 ではその環境は誰が作るのか。他でもない我々です。そのためには「自分の発言や行動が周囲にどのような影響をもたらすのか」を自問自答するメタスキルが非常に重要になります。

 自問自答するとは結局「相手に思いを馳せる」ことであり、誰かが言ったから「やらない」のではなく、自分が嫌だから「やらない」と結論付けることです。

 コンプライアンスの本質は、外から与えられる外的なものではなく、当事者が自分の内面で感じ、行動する内的なものなのです。