アカデメイア・オブ・コンプライアンス
HOME

最終更新日: 2008年6月9日

1.コンプライアンスとは?

 コンプライアンスとは英語で(要求や命令への)応諾・遵守を意味します。
難しく聞こえますが、日常この言葉を使う場合は専門家を除き、正確な学問的定義を覚えなくても大丈夫です。「国や市民からの要請や経営上のルールを守り、社会や顧客、従業員などに対して責任を果たすこと」が実務的なコンプライアンスの意味だと理解して下さい。

 つまりルールを破った場合はもちろんのこと、明文化された規則や当事者による故意の意図が無かった場合でも、結果として社会通念上相応しくない行為がなされた場合にはコンプライアンス違反と見なされます。

 このように、コンプライアンスとは何ら難解なものではありません。この文を読んで「何かすごい解説がされているのかと思ったが、あたりまえのことが書いてあるだけだ」などと拍子抜けしないで下さい。この「あたりまえのことが守られない」ということこそが非常に問題なのです。

2.コンプライアンス違反の例

  • 不良箇所を放置したまま製品を製造・販売し、事故を引き起こした。
  • 衛生管理が不十分のまま製造した食品を販売した。
  • 使用している原材料を偽り食品を加工し、販売した。
  • 保守管理を怠った結果安全性を損ない、事故を引き起こした。
  • データを捏造して情報を作成・提供した。
  • 事故の隠蔽や不正報告を行った。
  • 帳簿上の数字を良く見せるために、不適切な取引を行った。
  • 過重労働を従業員へ課し、事故の原因を生み出した。
  • 公的な社会保障制度の管理を怠り、放置してきた。(*)
  • 顧客に誤解を与える可能性があるとの判断が可能であるにもかかわらず、誇張した宣伝文句を用いて顧客の拡充を図り、指摘されるまで放置した。(*)
必ずしもコンプライアンス違反の名で報道されていないが、類似のケースと見なせるもの

(その他はコンプライアンス違反や事件の事例・関連情報一覧(報道リスト)をご覧下さい)

3.コンプライアンス違反の背景

 現実には複数の要因が複雑に絡み合ってコンプライアンス違反が起こりますが、それらのもととなる根本的な背景には以下のようなものがあります。

  • 業績の拡大や利益の追求を優先しすぎた
  • 自社の判断基準や状況の解釈が世間のそれらと異なっていた
  • 特定人物の影響力や発言力が強すぎ、組織内の自浄作用が働かなかった
  • 違反行為や情報等が隠されており、回避が極めて困難だった。

4.違反する組織の特徴

 コンプライアンス違反を起こす組織には、以下のような傾向が見られます。

  • 違反する/しているという意識自体が薄いまたは無い。⇒組織が認識麻痺に陥っている。
  • 「良くないことだ」という意識はあるが、見て見ぬふりをしている。⇒問題が他人事として扱われている。
  • 「違反する/している」ということを意識している人はいるが、それが他の人や外部に伝わりきらない。⇒問題が隠蔽、黙殺されている。

5.コンプライアンス対策の現状

 現在、コンプライアンスを実現させるための対策として様々な仕掛けやツールが提供・導入されていますが、その多くは規則やシステム導入など「仕組み」によるものが中心です。

【対応策の例】

  • 社内倫理規定の制定
  • 業務マニュアルの整備や改訂
  • 「コンプライアンス部」など専門部署の設立
  • 内部告発や相談窓口の設置
  • 日本版SOX法を念頭に置いた内部統制システムの整備
  • 上記に付随したセミナーや研修会の実施

6.現状の問題点 −仕組みの意義とその限界−

 個人の価値観によってその受け止め方も様々である「生き方論」や「道徳論」と異なり、コンプライアンスは組織として確保されるべきものです。よって、コンプライアンスを確保するために「仕組みの力」を借りることは重要です。組織として安定的かつ確実にコンプライアンスを担保させるためには、勘違いやミスを犯す人間に全てを依存すべきではないからです。

 しかし、仕組みに依存しすぎるのは危険です。準拠すべき明確な法的ルールがあるものは仕組みに落とし込みやすいのでまだ良いのですが、そうでない(例:業界内における暗黙の自主規制やそれらに基づいた現場の裁量など)場合は、現場にいる人の自主的な判断に任せざるを得ないからです。

 この点を考慮すると、コンプライアンスの全てを仕組みだけでカバーすることは非常に困難だといわざるを得ません。

7.問題解決の方向性 ―仕組みの限界を超えるために直ちに着手すべきこと−

 よって、仕組みを整えた後は教育等による「人に対する働きかけ」が必須です。それも導入時に行う説明会や研修会だけで済ませるべきではなく、回数を継続させかつ回を重ねるごとに質を高めていくことが求められます。

 そして、最終的には「社内規定やシステムがあるからコンプライアンス違反を起こさない」状態から「社員としてやるべきではないから、やらない」、さらに「自分の人生観や生活観に照らし合わせると当然すべきでないから(自分の生き方として)やらない」という人間の集団を作り上げねばなりません。

 そして実質的には仕組み自体は使用されない状態にまで進化させていく必要があります。

8.コンプライアンス違反防止の新概念 “コンプライアンス実感論”

 現在のコンプライアンスに関する議論は「精神論」「仕組み論」に二分されています。精神論は道徳や生き方を土台としてコンプライアンスを論じており、経済合理性の現実に生きる企業にとっては現実感をもって受け止めにくいという難点があります。また、仕組み論は先に述べたとおり、その効用に限界があります。

 しかし双方の主張には妥当性があり、どちらも大切なことを我々に教えてくれています。ただ議論の出発点が異なることもあり、プラグマティズムを前提とした場合、それぞれを“別物”として扱わざるを得ず、仕組みを精神へ昇華させていくことが極めて困難といわざるを得ません。

 そこで注目すべきなのが、精神論と仕組み論の間に位置する「コンプライアンス実感論」という新しい概念です。

9.なぜ“実感”か? −違反組織の社員が陥った罠−

 実感論を説明をする前に、違反組織の人材について紹介します。実際にコンプライアンス違反を犯した組織にいる多数の人と接した経験から気付いた2つの特徴を紹介します。

  1. コンプライアンス違反を犯した組織の人であっても、集団としでではなく個人として接すると常識的な人が圧倒的に多い
  2. 違反したことに対する“恐れ”“被害者の痛み”に対する感じ方がぼやけている・・・感じてはいるが、身を切るほど切迫感もって感じていない人が少なからずいる。
 つまり、自分や自分の家族が被害者と同じ経験をしたら当然感じるであろう、「やり場の無い憤りや深い悲しみ・疑問」に肉薄するレベルで違反を受け止めていない・・・被害者と同じレベルで実感していない、そう感じさせる人が残念ながらいたのです。

10.コンプライアンスを守る力を高める方法

 ではそういう人達を非難できるかというと、一概には出来ません。環境破壊に反対の気持ちを持っていても、ついつい利便性を優先させてしまうような「総論賛成・各論反対行動」は誰にでもあるからです。

 この誰しもが持ち合わせている習性に歯止めをかけるためには各人が「それは嫌だ」と実感することが大切です。例えば、

  • 「不衛生な工場で作られた食品を知らずに買ってきて、それが今晩の夕食に出され、家族みんなで美味しかったと食べた後に『実は非衛生的に作られた食べ物だった』と知らされたらどういう気持ちがするか・・・」
  • 「家族団らんで行った遊戯施設で、整備不良のまま運行している乗り物に子供を乗せられるか・・・」
  • 「不正を働いた組織に自分がいたらそんな自分に誇りを持てるか、そういう自分を親や子供に見せられるか・・・」

想像して、感じてみればいいのです。

 つまり、自分の仕事や職場での行動と自身の日常的な生活感覚を結びつけることにより、仕組みに頼らず主体的に自分の職務行動や組織内の出来事をチェックするきっかけを生み出すのです。このような視点、考え方が 「コンプライアンス実感論」 です。

11.コンプライアンス違反を防ぐための3要件

 コンプライアンス違反は、私たちが持っている「普通の感覚」を職場で持ち続けられれば未然に防ぎ得るものです。それは、事故直後の記者会見等で当事者が謝罪していたり、違反を起した会社の従業員への(顔を隠した)インタビューの様子を見れば、容易に想像できます。

 しかし組織の論理に縛られてしまうと、その簡単なことが出来なくなります。そして、組織の論理は競争が前提の資本主義経済の中で発生します。つまり、コンプライアンスは自由競争や市場主義という価値観・行動様式を前提とした資本主義が抱える永遠の課題なのです。

 コンプライアンスを「知り・考え・実践する」ということは、競争を前提とした日常の中で、自身・自分の家族と隣人、自分自身と社会との関係を突き詰めて考え行動することに他なりません。

 言うまでもなく、資本主義経済は企業に利益を巡る大競争を強います。しかし、過度の経済至上主義的価値観や行動は人や社会にゆがみをもたらし、企業はいつかはその代償を支払わねばならない状況へ追い込まれます。

 会社や上司から発せられる圧力に押し潰された社員は、心身ともに疲弊し、他を気遣う余裕を失い、本来持っていた「普通の人」としての健全な感覚を鈍らせていきます。そして最後には、「自分は不衛生なものを食べたくない」にも関わらず「その自分が他人が食べる食品を不衛生な状態で作る」というような背反が起こるのです。同様の背反は、業種を限らず全ての企業や組織の人に起こりうる出来事です。

 経済の発達に健全な競争は不可欠です。しかし互いに競争しながらも最終的には共存していかねばならないのも事実です。このジレンマを解決するためには、

  • 些細な日常から本質を見抜く力を持つ、心情的思考が出来る人材
  • 集団をまとめ、組織全体の質を高める人間的に成熟したリーダー
  • 人間の勘違いやミスを補完してくれる仕組み


の3つが非常に大切になります。

12.人の意識と行動を変える手間を惜しんではいけない

 コンプライアンスは「人」の問題です。他人事ではなく自分の問題です。人の問題は難しいし、手間がかかります。しかしそれを避け、拙速な解決策ばかりを求めてもコンプライアンス違反は防止できません。

 この現実直視すべきです。真のコンプライアンス実現には、仕組みの整備に加え、人の意識や行動の変革が欠かせません。

 そして、人の意識や行動はいくら知識や理論を学んでも変わりません。

  • 日常の些事を軽視せず、自身と他人との距離に実感を持たせる機会をどれだけ持てるかで個人のコンプライアンススキルが左右されます。
  • また、そのような機会をどれだけ提供できるかで組織のコンプライアンスパワーが左右されます。

繰り返しになりますが、個人も組織も不断の努力が必要です。